- 「逆説シリーズ」第五作。一級史料も揃い、読者にとって馴染みの深い人物・出来事の多い鎌倉幕府成立の時代を対象にしている。著者も流石に「逆説」を連発をする訳には行かず、歴史の通説をなぞる体裁になっている。
天才的軍略家、義経による平家討伐、義経・頼朝の兄弟間確執、鎌倉幕府成立が頼朝一人の天賦によるものではなく東国を中心とする武士の総意だった事。これらは人口に膾炙され過ぎていて、新鮮味に欠ける。その中で、北条時政に光を当てている点が特徴か。北条氏は、この時代の政子、泰時、後の時宗など突然変異的に傑出した人物を輩出する面白い一族である。奥州藤原氏についてはもっと筆を割いて欲しかった。現代から見ても、東北地方に豊富な金鉱があったとは考え難い。従来からの説でもある「ロシアとの交易で金を得た」を含め、「何故、奥州藤原氏は栄えたのか」を考えないと、頼朝が何故奥州藤原氏を狙ったのか、本書の説明だけでは曖昧である。泰時に関連して明恵に触れたのは本書の最大の功績であろう。私自身も常に感じている「自然のままが良い」と言う日本的感情が明恵に端を発するものなら、歴史は明恵に対してもっと光を当てるべきであろう。泰時と大岡越前の関係に触れているのは微笑ましい。
義経・頼朝を知らない読者なら、本書の前半に興奮する所だろう。だが、冒頭でも述べた通り、この時代の事は大半の日本人にとって周知である。それだけに著書は「逆説」性を打ち出すのに苦労したと思う。その試みは成功しているとは言い難いが、明恵・時政に光を当てるなど精一杯の著者の努力が感じられる労作。 - 第4巻半ばまでは「怨霊信仰」をテコに通説を覆し、仮説を提起し、事実関係を大胆に再構成する痛快さがあった。しかし時代が中世に近づくにつれ史料も豊富になり、研究蓄積で確定された事実関係は容易に動かし難いためだろう、主に「事実への意味づけ」の面で通説的解釈に異議を唱えるという内容に変わってきた。
古代編では歴史駆動の根本原理と呼びたくなるほど荒れ狂った「怨霊」も、エピソード的に時折顔を覗かせる程度に大人しくなった。ま、頼朝による中尊寺金色堂の処遇、長田忠致の処刑、あるいは後の義経伝説の伝播といった問題(p161〜)は単なる挿話にあらずと、著者は言うかもしれない。しかし本巻の主題となる源氏政権形成は、公家勢力vs地方武士勢力の土地領有権闘争の構図下で描かれるのだから、怨霊話はやはりサイド・ストーリーに留まるだろう。
ただ後半、「道理」概念の分析を通じて日本的法意識を特徴づける議論は面白かった。『沙石集』中の北条泰時のエピソードを「大岡裁き」に結びつけ、そこでの「裁き」とは「納得」の実現であり、実現に至る道筋が「道理」なのだと論じる。そこには山本七平や川島武宜が意識されていると思えるが、「日本人の理想とする裁判とは、場合によっては法を無視しても道理を重んじ、『自然な状態(=すべての人々が納得している状態)』を実現(回復)させるものなのである。だから、その背後には『和』がある」(p358)という一文は、極めて本質的な問題提起を孕むと思った。
叙述のイカガワシサに警戒警報が鳴りっぱなしだが、それでも止められず、第6巻「中世神風編」に乱入のココロだッ! - 御成敗式目の制定につながる当時の法のありかたが現代日本に通じるのをついたところが秀逸。
法令とは別のところにそれを超えた真の規範(ルール)があり、我々はその「別のところ」にあるものを尊重すべきで、そのためには法令は無視してかまわない。これが日本人の法意識である。そして、この「別のところ」にあるものとは『道理〔物事の正しい筋道。正論であること。そうである道理がわかって納得するさま。〕』である。
そのとおりである。日本人は法を最善だと思ってない。『道理』二正義を見出すものだ。これで東京裁判が国際法無視の違法なものであっても、国民は結果にうなずけると言うもの。違法であっても道理があったと考えればよいのだから。世論に答えるため、罪刑法定主義が障害となり逮捕できない悪人の身辺をかぎまわり、何が何でも他の犯罪行為を見つけ逮捕する、のにもうなずける。
頼朝が東国武士にとって崇拝すべき権威的存在(皇統の武士の棟梁)ではなく、彼らの利害を実現するためのミコシに過ぎなかった、と言う意見は若干衝撃だった。 - この「逆説の日本史」シリーズは愛読しているが、面白い反面、さすがに5巻くらいになってくると、飽きてくる。著者の強い主張に「お腹いっぱい」になってくる。
私は最初のうちは新鮮みを感じて「その通りだ」とうなずきながら読み進めた。しかし、だんだん「また、これか」と思い始めてくる。
“一般の学者が見落としているのは言霊思想であり、日本史における宗教的要素である”“こういう言い方をすると、マルクス主義史観に懲りかたまった学者は……”“右の学者は……”と、とにかく他をなで切りにするのである。
著者は、このシリーズの中で繰り返し「日本の思想は和にあり」と強調しているだけに、自分のように、どうしても「和」を重んじたくなる人間には「またか」と思ってしまう。
全シリーズのうち2冊くらいをピックアップして読むか、あるいは、2冊くらい読んだら、何年か時間を空けて読むとか。そうでもしないと読むのに疲れてしまうと感じる人もいるでしょう。この巻では今、大河ドラマで注目されている源義経の歴史的な存在意義。なぜ義経は頼朝に滅ぼされたのか。なぜ、あれほどの戦争の天才が亡んだのか。こういったところが面白かった。そのあたりの著者の見方は、今の社会で我々が生き抜くに当たっても、必要な視点を与えてくれると思う。
- 「逆説の日本史」シリーズは毎回楽しく歴史教科書に無い視点で
日本史をエキサイティングに読ませてくれます。検証や推察も
科学的&論理的態度を貫いているのでクビを傾げずに読みつづけることができます。
この第五巻では義経が頼朝の怒りを買ってしまった理由や、
後鳥羽上皇と鎌倉幕府の闘いであった承久の乱が、実質的には公家対武家と言う明確な階級闘争であったことを明快に
解きほぐしています。こういう歴史教育のエッセンスが高等教育で行われていたらなぁ、
なんて過去に思いを向けてしまったりします。
自分が予備校講師に戻ることがあったら使おうっと。
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